─ 漆 [うるし] ─
漆は英語で「ジャパン」というそうです。世界で漆を塗っているのはアジアだけで、ヨーロッパやアメリカなどの大陸では見あたりません。タイやカンボジアやブータン、それに中国、朝鮮半島、そして日本です。特に中国、朝鮮半島、日本の漆が技術的にもレベルが高いといわれています。しかし中国では漆といえば、衝立や壁画が主で、装飾の領域で活躍しています。朝鮮半島では家具が主である。日本だけが食器にまで漆を塗っている。中国の食器は『チャイナ』の名のとおり磁器であり、朝鮮半島では銀や錫である。日本は陶器も使いますが、正式の御膳は御飯も汁物も煮物も漆器を使っていました。他にも家具や建物の一部にも塗ります。日本人は世界でもっとも漆を身近に使う民族であったようで、それゆえに漆が「ジャパン」と呼ばれるようになったのでしょうか。漆塗りのもので一番見られるのは、黒漆のお椀やお盆でしょうか。漆は顔料などと混ぜ合わせるといろいろな色がでます。また漆は色を混ぜずに木に塗ることもでき、『摺漆』とか『拭漆』とかいわれ、一般に飴色をした、ある程度つやがある仕上がりになる。その他、溜塗りといって漆に色を混ぜずに厚めに塗るという『春慶塗』などに代表される方法もあり、こちらの方は赤褐色でピカピカにつやがでたように仕上がる。そして漆は熱に極めて強く、白くなるのは偽者だそうです。どんなに熱いお湯でも大丈夫だし、漆は金属や陶器に焼き付け塗装さえもできます。木の器に漆を塗ったものを熱に近づけた場合でも、下地の木の部分は焦げるが、漆そのものは平気です。それから、酸やアルカリ、アルコール、シンナーなどにもきわめて強い。どんな劇薬を入れても大丈夫で、ガラスを融かす「フッ化水素」や、金でも融かす「王水」を入れても漆器は大丈夫とのことです。こんなすごい特長を持つ漆は当然、漆の木から採取されています。漆の木は非常に成長の早い木で有名です。漆の採集は天然ゴムの採集に似ていて、樹皮に傷をつけ、そこに染み出てくる樹液をかき採り集めます。一本の木を傷つけてもほんの少ししか採れないので、漆の木は一ヶ所に集めて植林されている場合が多い。しかし、採集しても空気に触れると酸化してすぐ固まるし、ごみや必要以上の水分が入っていてもいけないので、採集は重労働のわりには量が少ない。漆は乾いていない場合はかぶれるが、乾いてしまえば絶対にかぶれることはありません。漆塗りのものは家具や食器だけでなく、いろいろな分野に使えます。アクセサリーはもちろん、日本古来の楽器、仏壇、床の間や建具等、私達の生活の周りを見渡せばいろんな場面で登場しているのではないでしょうか。 (日浦佳子)
|